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万延元年のフットボール /大江健三郎

万延元年のフットボール (講談社文芸文庫)

万延元年のフットボール (講談社文芸文庫)

 

・形式

長篇小説
・あらすじ

重度の精神障害の子供の父親であり、親友を自殺で失った根所蜜三郎は、60年安保闘争

に挫折する。そのとき、渡米していた弟・鷹四が帰国する。傷心の蜜三郎は弟の誘いに

応じ、自己の拠り所と再生を求めて四国の山奥にある故郷の村へ帰る。蜜三郎と鷹四の

曽祖父は地元の村の庄屋であり、その弟は万延元年の一揆の指導者であった。蜜三郎・

鷹四兄弟は、この百年前の兄弟の姿に自分たちを重ね合わせようとする。
・収録話数

全十三章

・初出

群像1967年1月号~7月号
・受賞歴、ランキング

第3回谷崎潤一郎賞

伊藤整

円地文子

大岡昇平

武田泰淳

丹羽文雄

舟橋聖一

三島由紀夫

ノーベル賞対象作
・読了日

2016年8月9日
・読了媒体

万延元年のフットボール (講談社文芸文庫)
・感想メモ
※以下ネタバレ有のため一部反転。


これまでの大江作品に頻繁に登場してきた、四囲を森にふさがれた四国の谷間の村、もちろん大江の生まれ育った故郷が原体験としてある、それがこれまででもっとも執筆時期的にも文量的にも長く描写されることになった。

そして頭に障害を抱えて産まれてきた第一子の存在が大江に与えた影響は絶大である、前作『個人的な体験』から二年もの時間を空けて発表された本作でも、主人公の妻菜採子に影を落とした。

しかしこの小説のラストは悲観的なものではない。『個人的な体験』で産まれてきた障害児の死を願った主人公バードが子どもとの共生を選択したように、ラストシーンはこれからの人生に一縷の光明を発見したかのような終わり方だ。

青春の一時期に、若くして小説家として一見順風満帆な人生を歩きだした大江健三郎は、転換を企図した長篇『われらの時代』、その後の『叫び声』、『日常生活の冒険』と、政治と性をテーマに掲げながら、青春の敗北と死を描いてきたといえる。しかし『個人的な体験』から本作にかけて感じるのは、今この瞬間を考えてあがいている青年ではなく、これからの人生の生き方を模索しようとしている青年である。そのようなところにこの小説の良さがあり、三十代での谷崎賞受賞、そしてのちのノーベル文学賞受賞があったと考えている。(2017.8.29)